京扇子(きょうせんす)は、平安時代初期からの日本独自の伝統工芸品の一つ
桃山時代には、現在のような技法が確立された
京扇子は、夏の涼を取る目的よりも、貴族の象徴として、儀礼的に用いられていた
京扇子は、表面的な美しさだけではなく、風合い・持ち味等、実用品としての様々な「美」を持ち、非常に多くの種類があり、
形状・素材など用途に応じた美のかたちが追求されている
金銀箔、漆、蒔絵などが施されたものは、高級美術品として珍重される
素材、製法によって板扇(いたおうぎ)と貼扇(はりおうぎ)に分けられ、貼扇はさらに紙扇と絹扇に分けられる
<末広扇(中啓)>
生後約1ヶ月のお宮参りで、産土の守護神へ末広扇が奉納される
七五三の祝事のお宮参りでも、必ず扇子が持たれる
<童用扇子>
7歳になると、常に扇子を持つようになる
十三まいりから大人用の扇子に代えられる
京舞、茶道、華道、謡曲などの稽古ごとを習い始めると、それぞれの稽古ごとに決められた扇子を持つようになる
扇子を前に置くことで、謙譲の意を表わし、挨拶の決まりごととして使われる
<婚礼>
婚約では、新郎に白扇を、新婦に金銀扇の扇子を贈り取り交わされる
平安時代には、自分が普段使っている扇子を相手に託す習慣があったといわれる
婚礼では、男性は細骨、女性は黒骨本金銀地紙の扇子を持ち、多幸を祈願し、災厄から身を守る魔除けとしても使われている
<葬儀>
不祝儀には、鈍色(にびいろ)の扇子を携え、
凶事が再び起こらないように、その時限りで捨てられる
細かく分けられ、その各工程は、分業によって行われている
<扇骨加工(せんこつかこう)>
胴切(どうぎり)
割竹(わりたけ)
扇の長さに切った竹を、扇骨(せんこつ)の幅に縦割りされる
せん引(せんびき)
扇の両端に用いる親骨(おやぼね)、扇骨など、割竹の内側の部分を薄く削り取っていく
目もみ
削り取られた竹材、要(かなめ)を通す穴が開けられ串に通される
あてつけ(扇骨成型)
串に通された数十枚の竹材を、一枚の板状になるように台の上に揃えられる
板状の竹材に、あてつけ専用の包丁やノミをあてて削り、扇骨の形に仕上げられる
丁寧な「あてつけ」作業と、その後の「磨き(みがき)」が、京扇子の光沢を生み出す
白干し(しらぼし)
成形された扇骨が、天日にさらし乾燥される
磨き(みがき)
扇骨を、木賊(とくさ)や椋(むく)の葉で磨かれる
要打ち(かなめうち)
末削(すえすき)
扇面(せんめん)の地紙(じがみ)の間に入る中骨(なかぼね)の部分を
一枚一枚、鉋(かんな)で、薄く細く削られる
<地紙加工(じがみかこう)>
「地紙」と称される扇子に用いる紙が作られる工程
合わせ(あわせ)
「芯紙(しんがみ)」と称される極薄い和紙を中心にして、
両面に「皮紙」という和紙を貼り合わせて地紙が作られる
後の工程で、この芯紙の厚みの中心に、中骨にあたる扇骨が差し込まれる
乾燥
裁断
扇形に切り取られる
<加飾(かしょく)>
箔押し(はくおし)
糊を引いた地紙の上に、一枚ずつ金箔が押される
「無地押し(むじおし)」は、地紙一面に箔が押され、高度な技術を要する
上絵(うわえ)
箔が押された地紙に、手描きされる場合には、絵師(えし)により上絵が描かれる
木版画摺(もくはんがずり)、切型摺り込み(きりがたすりこみ)
京版画や、型を使って彩色が施されるものもある
<折加工(おりかこう)>
折り(おり)
適度に湿り気を与えた地紙は、扇の骨の数に応じた2枚の折型(おりがた)の間に挟み込まれ
手前から畳み込むようにして折り目が付けられる
中差し(なかざし)
折り目の付いた地紙を乾かし、差竹という道具を芯紙(しんがみ)に突き通し、
芯紙を厚みの中央から2つに分けて、中骨を入れるための空洞が作られる
万切(まんぎり)
中附け(なかつけ)
芯紙の隙間へ、糊を引いた中骨(なかぼね)が手早く差し込まれる
中骨が正しい位置に決められたら、拍子木(ひょうしぎ)で強く叩き込まれる
<仕上げ加工>
万力掛け(まんりきがけ)
扇を数本づつ組にし、板の間に挟み、万力で均一に圧力をかけ、
約一昼夜おいて折り目を安定させ、地紙の天地の不必要な部分が裁ち落とされる
親あて(おやあて)
地紙の両外側に、親骨が貼り付けられて完成する
<桧扇(ひおうぎ)>
記録用に使われていた桧(ひのき)の細く薄い板「木筒(もっかん)」を何枚か綴り合わせて、手もとに要をつけ、
先を絹の撚糸で編み綴った扇の形にした板扇
表に金銀箔を散らし、彩絵される
平安時代、束帯など、宮中の公の儀式に、最も正式なものとして用いられた
葵祭で斎王代が持つ扇
<中啓(ちゅうけい)(末広)>
親骨が要よりも外側に反った形をしており、折りたたんだ時も扇の上端が広がっている
「中ば(半ば)啓いている(開いている)」ということから「中啓」と名付けられた
公家では、檜扇に次ぐものとされ、儀礼に用いられた
江戸時代の大名家では、直垂・布衣・大紋着用のときの持ち物とされた
寺院での儀式にも用いられている
能、狂言、歌舞伎にも用いられる
<蝙蝠扇(かわほりおおぎ)>
竹を骨として、片面にだけ地紙を貼った紙扇「摺扇(すりおうぎ)」が作られ、
扇面が上絵で飾られた雅やかな扇となり、身の回り品になる
骨の数は5本ぐらいで、
扇を開いて逆さまにした形が蝙蝠(こうもり)に似ていることから「蝙蝠扇(かわほりおおぎ)」と称される
<絹扇(きぬせん)>
ルイ王朝のヨーロッパで絹やレースを貼ったものに発達した洋扇子が、日本へ逆輸入され、
絹や綿を貼った「絹扇(きぬせん)」ができる
<白檀扇>
香木 白檀の木片を重ねた板扇
透かし彫りや、描き絵の装飾が施される
上品な香りを楽しむ持扇とされる
<能扇>
室町時代
猿楽・能楽などの芸能に用いられるようになって発達した華やかな雰囲気を持つ紙扇
扇骨、図柄などに流派による伝統的な約束事がある
<舞扇>
室町時代以降
舞踏用の紙扇
芸術的工芸品として「飾り扇」としても用いられる
雲や霞、水などの図柄が多い
井上流の舞扇の図柄は、全て「近衛引(このえびき)」
白骨で、金地のところに白ぬきで井菱の定紋が入っている
寸法は、9寸5分
名取の扇、芸妓用、舞妓さん用、稽古用、子供稽古用と、経験や段位により全て決まった扇が用いられる
<茶席扇>
室町時代以降
茶道の発展とともに発展し、茶席に用いられる紙扇
紳士用は、六寸、婦人用は、五寸の長さのものが使われる
<祝儀扇>
冠婚葬祭用に約束事が多くあり、男女によって地紙や扇骨に特徴を持つ
<有職扇>
宮中や神社、寺院で用いられる扇
古来からの礼式、故事に従って製造されている
<東寺の桧扇>
877年(皇紀1537)元慶元年
食堂(じきどう)の本尊 千手観音菩薩の腕の中から発見された桧扇が、「元慶元年」と記されており、最古の扇子とされる
<葵祭>
5月15日
斎王代は、桧扇を持ち路頭の儀などの神事を奉仕される
<三船祭>
5月第三日曜日
嵐山で営まれる車折神社の祭礼
大堰川で、船から和歌などを書いた美しい扇が流される
<事始め>
12月13日
花街や室町、西陣の旧家などで、この日から正月を迎える準備を始められる
芸子・舞妓さんたちは「今年もよろしゅうおたのもうします」と家元に挨拶をし、ご祝儀の舞扇を受けて精進を誓う
<扇塚>
五条大橋の西側の畔
「御影堂(みえどう)」と称される時宗 新善光寺があり、ここで「御影堂扇」と称される扇が作られていた
付近には扇屋が多く建ち並んでいたといわれる
<扇塚>
誓願寺の西門を入ってすぐ右手にある
策伝日快上人にゆかりの深い扇塚が建てられたといわれる
芸道に励む人により、日常使っていた扇を塚に納め、芸道精進を祈願される
「芸道上達祈願扇塚誓願寺」と書かれた石碑も立っている
<俵屋宗達>
尾形光琳と並ぶ、江戸時代初期の大画家
「俵屋」という絵画工房を率い、主に扇絵を制作していたといわれる
<扇子感謝祭>
八神社
8月8日