矢(や)(Arrows)

矢(や)は、弓道での競技で用いられるもの、儀式に用いられる式矢などがある

有識にのっとったものは10種類以上ある

京都市の伝統産業の一つ

京弓京竹工芸も、個別に京都市の伝統産業の一つ

 (写真は京都伝統産業ミュージアムにて撮影)

【矢の歴史・経緯】


【竹矢】

 <竹矢(たけや)>
 弓道での競技で用いられる一般の矢、儀式に用いられる式矢などがある

 太さ・重さ・長さ・しなりの良し悪し・バランスなどの条件を、
 的中さ、堅いものを貫く、遠くを射る、速く射るなどの重要性や、射手の個性・好みに合わせて作られる

 竹矢を「真篠(ましの)」、大鳥の羽を「真羽(まば)」と称される


 <矢の主な構造>
 矢尻(やじり)鏃(やじり)矢の根(やのね):矢の先端で、を放ったときに的に刺さる部分

 篦(の):矢の軸となる竹の部分

 羽根(はね):矢が飛ぶ方向を決めるために、筈側に取り付けられている鳥の羽
 走羽(はしりば)・弓摺羽(ゆずりば)・外掛羽(とかけは)の3枚が取り付けられる
 一般的に、七面鳥や黒鷺(くろさぎ)の羽が用いられる

 筈(はず)矢筈(やはず):矢の一番端の、の弦を挟む部分


 <竹>
 矢の種類によって、竹を伐る時期が変えられる

 征矢(そや)(戦場で使う矢)で用いられる「うきす」は、
 若竹を夏の土用に伐り、もみがらで磨き日陰干しして使われる


 <竹矢の目的による種類>
 的矢・遠矢(とおや)・征矢(そや)・鏑矢(かぶらや)・引目(ひきめ)など
 大別して20種類ほどある

 鏑矢(かぶらや)・蟇目(ひきめ)・神頭矢(じんとうや)など、有識にのっとったものは10種類以上ある

 鏑矢(かぶらや)は、矢の先端付近の鏃(やじり)の根元に鏑(かぶら)が取り付けられた矢のこと
 射ると大きな音かして飛び、戦の合図として用いられる
 「一番矢」の意味を持ち、新しいスタートの縁起物としても重宝される
 戦勝祈願・心願成就などで、鏑矢や矢尻が神社に奉納されることもある


 <的矢の形状>
 杉形(すぎなり)・一文字(いちもんじ)・麦粒(むぎつぶ)の3種類がある
 形状による性能の差というより、射術の流派から選ばれる


 <箆拵え(のこしらえ)>
 箆(の)は竹矢の部分で、見た目を美化すること
 火色箆・白箆・さわし箆・ぬぐい箆などがある

 火色箆は、火入れのとき、焼きながら着色したもの
 白箆は、火入れのとき、こがさぬように生地色のまま仕上げたもの

 さわし箆は、火色箆を水田の土中に夏のうちの2ヶ月間程入れて置き、たびたび手入れしながら黒く変色させて
日陰干しにして十分に矯め、漆拭きされたもの
 竹が少し変質して、矯めは狂わなくなるが、折れやすくなる

 ぬぐい箆は、薄く火入れ着色したものを、数回、漆拭きして着色したもの


 <竹矢を盛る器>
 箙(えびら)・空穂(うつほ)・胡箙(たなぐい)・平胡箙(ひらたなぐい)・矢籠(しこ)など
 軍用の修羅矢籠、狩猟用の猿頭巾、デザイン性がある尾花矢籠などがある


 <鏃(やじり)(矢尻)(矢の根)>
 矢の先端につけ、射当てたとき突き刺さる部分
 非常に多くの種類がある


【矢の製作工程】

 「一削(けず)二矯(ため)三火(び)に四羽(はね)」「一矯二削三火」のように重要度・難易度を示す工程をいわれる

 矯(ため)は、荒矯・なか火・火入れ・仕上げ矯など、4回程繰り返し行われる
 火(び)も、荒矯・なか火・火入れなどのこと


 <乾燥>
 例えば、11月初旬から12月末にかけて切り出された竹は、翌年3月まで、
天日雨露にさらし、たびたび上下に移動して、ムラのできないように管理されながら半年から1年間ほど乾燥される

 <選別>
 一本ずつ丹念に竹質、節の位置などの検査が行われる

 射付節を基準として、一定の長さに切り詰められる


 <棚分け>
 節の位置によって七種に分類される
 竹質・太い細いなど、再び検査が行われ、上・中・並・不採用と格付けされる

 <荒矯(あらだめ)>
 最初の火入り
 乾燥された竹を、高温の火で炙り、歪んでぐねぐねの状態の竹を練って真っすぐにする
 左右上下と繰り返し練りながら矯が行われる

 荒矯の済んだ竹は、そのまま数年間保存することができる


 <組合せ>
 荒矯された竹を、節・太さ・目方・質によって、4本あるいは6本などに組み合わせる
 うまく合っていないと、次の箆作りで不合格になってしまう

 <箆作り(のつくり)>
 箆(の)の良し悪しを決める最も重要な工程といわれる
 作ろうとする形に適した材竹の選定が行われ、節削りによって大体の形が決められ、さらに削り上げられる

 <なか火>
 削りあがった箆を、節を貫いて火入れが行われる
 良質の炭火のトンネルを繰り返し通して、竹に含まれている分子を丹念に練りながら矯が行われる

 <石磨き>
 石と石との間に2本の箆を挟むようにして、細かな金剛砂(こんごうしゃ)を箆に振りかけ、
静かに廻しながら、 小刀で彫りつけた刻み目「小刀目(こがため)」が落ちる程度まで磨く

 <火入れ(本火)(焼き入れ)>
 炭火のトンネルの下の部分に、備長炭の丸い特別な炭「樫小丸(かしこまる)」を用いて、全体を焼きながら着色が行われる

 <もどし>
 水にひたして堅さを戻してから、極細な砂で矯が行われる

 <水とくさ研ぎ>
 砥草を用いて矢を艶出し研ぎされる

 釣り合いを合わせ、筈(はず)揃えて、箆として完成する


 <矢矧(やはぎ)羽拵(はねこしらえ)>
 1枚の羽の中心から左右に割いて、羽の模様の斑を揃えながら定寸に羽どりする
 羽軸を薄く平らに焼き、箆に対して平行に矧ぎ(はぎ)、竹に羽をつける

 矢が逆廻りしないよう、十分な注意してつけられる

 羽根の右向きを「甲矢(兄矢)」、羽根の左向きを「乙矢(弟矢)」とも称される


 <仕上げ>
 特殊のハサミで羽形の調整、箆の形により羽幅を調整しながら仕上げられる

 <仕上げ矯>
 最後に仕上げに矯が行われる


【矢のゆかりの地】

 <上賀茂神社
 祭神の玉依日売は、瀬見の小川で遊んでいたところに流れてきた丹塗りの矢を拾い、
床の間に飾っていたところ、懐妊したといわれる
 丹塗りの矢は、火雷神(ほのいかずちのかみ)だったといわれる

 10月の笠懸神事では、疾走する馬上から、鏑矢を放ち的を射る神事が行われる

 9月9日の烏相撲では、
 弓矢を手にし白い装束を着た2人の刀弥(とね)が、横飛びしながら出てきて「カオーカオー、コーコーコー」と烏の鳴き声を真似る



 <下鴨神社
 朱塗の矢の発祥の地
 玉依媛命が瀬見の小川で禊をされたという霊験の神矢が由来

 5月上旬の流鏑馬神事は、賀茂祭(葵祭)の前儀の一つ
 下鴨神社糺の森の馬場で、
 馬を走らせながら公家の狩装束姿の騎手が、「陰陽(いんにょう)」と声をかけ、3ヶ所の的を鏑矢で射ぬく神事


 <城南宮
 「流鏑馬発祥の地」とされる
 5月28日の流鏑馬では、 石畳の参道に、幅1.8m、厚さ15cmの砂を敷いて180mの馬場が作られ、
平安狩装束姿(かりしょうぞくすがた)の4人が、駆ける馬から矢を放って3つの的を射止める


 <藤森神社
 5月5日の駈馬神事では、いろいろな駈馬の技が披露される
  手綱潜り 降りしきる敵の矢を避けるため体を馬の横にずらして頭を下げて駈ける技
  矢払い 敵の矢を打払いながら駈ける技
  藤下がり 敵矢に当たったと見せかけて馬から落ちそうな姿勢で駈ける技
 など


 <御香宮神社
 2月の卯日の御弓始神事
 大きな字で「鬼」と書いて裏返しにした邪気に見立てた的に矢を射って平穏祈う
 狩衣姿の氏子により的に命中するまで矢が射られる
 江戸時代から続く神事といわれる


 <八大神社
 4月第1日曜日 神弓祭(古式弓執神事)
 本殿での神事の後、神前でで的を射り、邪気を祓う「歩射祭」で、二人の弓執りが、二本の矢をそれぞれ3ずつ的に放つ


 <市比賣神社
 5月13日の春季大祭・市比売祭(いちひめさい)の斎矢神事
 お供えをした参拝者の的に矢が射られ、矢が当たった人にその矢が1年間預けられ願いが叶うといわれる


 <剣神社
 2月11日の御弓始祭・厄除火焚祭
 拝殿の角で外側に向かって弓矢を放ち、
最後に北東の角の2本の木の間につるされた「鬼」と記された的にを射て厄除け開運を祈願する


 <吉田神社
 節分祭では、黄金の四つ目の仮面をかぶった方相氏(ほうそうし)が、陰陽師(おんみょうじ)祭文を奏し、
大暴れをする赤、青、黄の3匹の疫鬼を追い払い、
 疫鬼たちは、鳥居を通って逃げて行き、鳥居に向かって桃ので葦の矢が放たれる


 <廬山寺
 2月の節分会の追儺式鬼法楽
 松明(たいまつ)や剣を持ってお堂の中で暴れ回り護摩供を邪魔する赤鬼や青鬼・黒鬼に紅白の餅と豆を投げ、
追儺師が邪気払いの法弓で四方に矢を放ち、鬼たちを退散させる


 <金閣寺
 2月10日お弓祭は、北野天満宮の神職が、舎利殿に向かって5本の矢を放ち天下太平を祈願する神事
 北野天満宮に祀られている菅原道真は、の名手でもあり、
金閣寺を創建した足利義満や歴代の住職が、篤く北野天満宮を信仰していたといわれる


 <石清水八幡宮
 武の神、弓矢の神、戦勝の神さんとして、清和源氏の足利氏・徳川氏・今川氏・武田氏などの氏神さんとされる


 <松尾大社
 祭神の大山咋神は、鳴鏑(大形の鏃をつけた矢)を使う神といわれる


 <神明神社
 源頼政が、近衛天皇を毎夜悩ました鵺(ぬえ)を退治したときに使った2本の矢尻が奉納されている


 <篠村八幡宮
 矢塚には、足利高氏は、戦勝祈願の願文を奉納し、玉串に代えて、合戦開始合図に使う鏑矢を奉納した
 実弟 足利直義らの武将たちが続いて次々と鏑矢を奉納し、山のように積まれたといわれる


 <由岐神社
 天皇のご病気など、国の非常時には、神前に靫(ゆき)(矢を入れる器具)を奉納して平穏を祈願されたことで
「靫明神(ゆきみょうじん)」とも称される


 <祇園祭山鉾 浄妙山
 御神体の筒井浄妙は、黒装束に、矢を24本をいれた黒の箙(えびら)を背負い、塗籠籘のに、白柄の大長刀を持つ
 橋桁は、黒漆塗、擬宝珠付で、数本の矢がささり戦さの凄まじさが表されている


 <三十三間堂
 1月成人の日の楊枝のお加持大法要  弓引き初めと
 お堂に沿って60mの射場で矢を放ち通す「通し矢」と称される全国大会が行われる


 <若宮神社
 平安時代初期に、神職 星野茂光が、神霊を勧請するにあたり矢を空中に向かって放つと、
三つの星が落ちてきて袖の中に消えたといわれる
 この霊験により「流星坊」と称される


 <古世地蔵堂
 源頼政の守り本尊「矢の根地蔵」が祀られている
 手には、錫杖(しゃくじょう)の代わりに弓矢を持っている珍しいもの


 <青蓮院将軍塚
 桓武天皇が、平安遷都に際し王城鎮護のため、高さ八尺(約2.4m)の征夷大将軍 坂上田村麻呂の像に
鉄の甲冑を着せ、弓矢を持たせて、太刀を佩かせて、都の方に向けて埋めたとされる


 <寿宝寺
 本尊 十一面千手千眼観世音菩薩立像(重要文化財)
 円を描いたような脇の四十手は、それぞれ日輪、月輪、鏡、矢、雲、骨、剣など40の物を持っている


 <八臂弁財天
 8本の手には、・矢・刀・矛(ほこ)・斧・長杵・鉄輪・羂索(けんさく)を持つとされ、全て武器で、戦神としての姿をしている


 <平岡八幡宮
 為朝石
 の達人だった源為朝(鎮西八郎為朝)が矢で射抜いたと言われる石
 勝運出世の石といわれる


 <建仁寺
 南側正面の勅使門(重要文化財)の柱や扉に矢の痕跡があり、「矢根門(やのねもん)」「矢立門(やたちもん)」と称される


 <七条大橋
 現在の欄干のデザインは、三十三間堂の通し矢のモチーフに改修されている


【その他】

 <京竹工芸
 竹を用いた工芸品で、京都市の伝統産業の一つ


 <小笠原流
 弓術・馬術など、有職故実に基づく武家社会の故実(武家故実)の礼儀作法の流派の一つ


【京都検定 第2回3級】

【京都検定 第10回3級】

【京都検定 第14回3級】

【京都検定 第16回3級】

【京都検定 第17回3級】

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【京都検定 第22回3級】

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【京都検定 第10回2級】

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